東京は中東とのエネルギー協力を、原油・LNGの取引中心から、水素やCCUSを含む技術協力へと広げている。 5月12日と13日にヨルダンのアンマンで開かれた第1回「日本・中東戦略対話(Japan-Middle East Strategic Dialogue)」では、エネルギートランジションをめぐる共通ビジョンや、日本企業の関与余地が議論された。背景には、2月末以降の中東情勢の悪化と、ホルムズ海峡を含む海上輸送リスクの高まりがある。日本政府は3月以降、関係省庁が特設ページや相談窓口を相次いで立ち上げ、供給不安に備える体制も整え始めた。
東京が中東とのエネルギー協力を強化する狙い
今回の戦略対話で前面に出たのは、「現実的・漸進的・包括的」なエネルギートランジションという考え方だ。再生可能エネルギーへの急激な転換を掲げやすい欧州と異なり、日本は地理的に近隣の産エネルギー地域と電力・ガス網でつながっていない。結果として、短中期では化石燃料、原子力、新エネルギーを組み合わせる道筋が政策議論の軸になりやすい。
中東側にも、同じ時間軸の現実がある。湾岸協力会議(GCC)諸国を中心にネットゼロ目標を掲げる動きが進む一方で、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などは、石油・天然ガス収入を財政と社会安定の基盤にしてきた。輸出を急に縮めにくい構造がある以上、脱炭素と産業維持を両立させる技術が交渉の焦点になりやすい。
象徴的なのが、サウジアラビアが2020年のG20で打ち出した「サーキュラー・カーボン・エコノミー」だ。CO2を「削減・再利用・再生利用・除去」の4つの考え方で扱い、炭化水素を使いながら排出を抑えるという発想は、技術を軸にした移行策として位置づけられている。次の章では、こうした方針がなぜ東京の政策対応とも接続しているのかを見ていく。

中東情勢の緊迫化で浮上したサプライチェーンとホルムズ海峡リスク
2月28日にイスラエルおよび米国がイランに対する攻撃を開始し、イランが中東諸国への反撃を行ったことで、地域情勢は一段と不安定化した。貿易の要衝であるホルムズ海峡では船舶への攻撃も起き、通航が停止状態になったとされる。エネルギー輸送に直結する事態で、企業活動への波及を警戒する動きが広がった。
日本政府側では、複数省庁が相次いで対応窓口を整備している。内閣官房は「中東情勢に関する関係閣僚会議」を動かし、4月2日には重要物資の安定供給確保に向けたタスクフォースの議事次第なども公表された。経済産業省は「中東情勢関連対策ワンストップポータル」を設置し、資源エネルギー庁も石油および関連製品の対応情報をまとめた。
影響はエネルギー調達だけに限らない。国土交通省は相談窓口を設け、輸送やインフラ関連の事業者の不安を吸い上げる導線を用意した。厚生労働省は3月31日に医薬品・医療機器などの確保対策本部に関する発表を行い、農林水産省、環境省も関連ポータルを開設するなど、波及範囲を前提にした備えが目立つ。
情報面では、日本貿易振興機構(ジェトロ)が「イスラエル・米国とイランの衝突に関する中東情勢」の特集を設け、外務省は海外安全情報を更新している。リスクが顕在化した局面ほど、次に問われるのは「供給の代替」ではなく「協力の中身」だ。
こうした現実の危機対応と並行して進むのが、トランジション期の新しい協力モデルである。
水素とCCUSが軸になる日本と中東の技術相互依存
戦略対話の文脈で繰り返し示されたのは、従来の「市場取引」を超え、技術とビジョンに基づくパートナーシップへ移すという方向性だ。日本は人口減少などに伴い国内需要の伸びが限られると見られ、単純な輸入量の積み上げだけでは関係を語りにくくなっている。そこで前面に出るのが、水素とCCUS(炭素回収・利用・貯蔵)だ。
水素では、日本は早期から利活用技術の開発を進めてきた。モビリティではトヨタ自動車や日産自動車、燃料電池分野でパナソニック、発電や海運・サプライチェーンではJERA、川崎重工業、三菱重工業などが取り組みを続ける。中東側で計画される水素輸出が、現地需要と結びつけば事業性が上がるという指摘もあり、輸出一辺倒からエコシステム形成へと発想を変える余地がある。
CCUSは、ブルー水素の製造や、化石燃料を使う産業の排出抑制に直結する。中東では地下貯留を念頭に置いたプロジェクトが検討され、日本企業も商機を探る。具体例として、海運の川崎汽船がノルウェーの「ノーザン・ライツCCS」に向けたCO2運搬船の提供を発表しているほか、日揮はCO2分離・回収膜の開発に取り組む。地理的に離れた北欧案件への関与は、CO2輸送・貯留が国際的に事業化へ向かう流れを示すエピソードでもある。
重要なのは、これが一方的な技術移転ではなく、相互依存として設計されつつある点だ。中東諸国も水素やCCUSの知見を蓄積し始めており、日本側は技術を「売る」だけでなく、現地の投資・制度・運用から学ぶ立場にもなる。危機対応が供給確保の議論を促した一方で、協力の本丸は、移行期の産業競争力をどう共同でつくるかに移りつつある。





