機関投資家による暗号資産の取り扱いが広がるなか、カストディサービスの拡大が一段と鮮明になっている。米IBMは機関向けプラットフォーム「Digital Asset Haven」を2025年末までに提供開始すると発表し、同じく米大手カストディアンのBNYは2026年5月7日、アブダビで規制に準拠した保管基盤の構築に乗り出した。銀行や政府機関、大企業が求めるのは、セキュリティと規制対応を両立しながら、デジタル資産の資産管理を実務に落とし込める「運用レベル」のインフラだ。
IBMが機関投資家向けデジタル資産基盤「Digital Asset Haven」を発表
IBMは、機関向けの暗号資産関連サービスプラットフォーム「Digital Asset Haven」を2025年末までに提供開始すると明らかにした。銀行、政府機関、大企業が大規模にデジタル資産を扱うことを想定し、保管から取引、決済、コンプライアンスまでを統合する構想で、フランスのウォレットインフラ企業Dfnsと共同で開発したという。
特徴は「点」ではなく「面」で業務をつなぐ設計にある。IBMによれば、カストディサービスに加え、取引ルーティングや決済、コンプライアンスなどライフサイクル全体を一つの基盤で管理し、40以上のパブリック/プライベートのブロックチェーン接続を通じて金融機関のデジタル取引を自動化する。本人確認(KYC)やマネーロンダリング対策(AML)、利回り管理ツールを標準搭載し、オープンAPIやSDKでフィンテックとの接続性も確保する方針だ。
守りの面では、秘密鍵保護に「Crypto Express 8S」チップ、マルチパーティ計算(MPC)、オフライン署名のオーケストレーターを採用し、将来の量子計算の脅威にも耐性を持たせたとしている。初期リリースは2025年第4四半期を予定し、SaaSおよびハイブリッドSaaSで提供、2026年第2四半期にはセルフホスト版も展開予定だ。既存の銀行インフラと直結できることは、実装を急ぐ組織にとって現実的な選択肢になり得る。

BNYがアブダビでBTCとETHの機関投資家向けカストディ提供へ
BNY(旧バンク・オブ・ニューヨーク・メロン)は2026年5月7日、アブダビでの暗号資産関連サービスを拡大する計画を公表した。現地パートナーのFinstreet Limited、ADI Foundationとの戦略的協業を通じ、アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)を拠点に、機関向けの規制対応かつスケーラブルなカストディサービスを目指す。
協業の枠組みでは、UAEの投資持株会社IHC傘下にあるFinstreetのデジタル市場インフラと、ADI Foundationが掲げるソブリングレードのブロックチェーン「ADI Chain」を組み合わせ、アブダビ発の包括的な保管ソリューションを構築する構想だ。まずはFinstreetのクライアント向けにビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)の保管対応を提供し、その後、ADIのブロックチェーンレールへの拡張も検討するとしている。
BNYは信託・カストディ分野で世界最大級のプレイヤーで、同社発表ベースで約59.4兆ドルの資産をカストディ下に置く。伝統金融の巨大な保管銀行が中東の規制市場で足場を固める動きは、暗号資産が「取引対象」から「制度の中で管理される資産」へ移行しつつある現状を映す。次の焦点は、ステーブルコインやRWA(現実資産)のトークン化にどこまで対象が広がるかだ。
このアブダビでの基盤整備と並行して、IHCはUAE中央銀行が承認するディルハム連動型ステーブルコイン「DDSC」の発行を最近発表している。決済と保管が同じ規制空間で噛み合えば、国際送金や企業間決済の実装が現実味を帯びる。カストディの整備は、表舞台に出にくいが市場インフラの成否を左右する論点だ。
規制対応とセキュリティが投資信託や金融機関の採用を押し上げる
機関マネーの参入で繰り返し問われてきたのは、価格変動よりも「どう保管し、誰が責任を負うのか」だった。とりわけ投資信託やETFのように、受託者責任や分別管理、監査可能性が重視される商品では、運用会社単独のウォレット運用では説明が難しい局面がある。そこで、世界的なカストディ銀行やエンタープライズ向けITベンダーが、資産管理とセキュリティ、規制対応をセットにした基盤を用意し、参入障壁を下げる構図が強まっている。
IBMの「Digital Asset Haven」が志向するのは、KYC/AMLやコンプライアンスを組み込んだ統合運用で、従来の銀行システムと接続しながらデジタル取引を自動化する発想だ。一方のBNYは、ADGMという規制フレームの中で、実際の保管サービスを中東の顧客基盤へ広げる。どちらも、暗号資産を“特別扱い”せず、既存の金融業務の延長として扱える状態に近づけようとしている点で共通する。
市場環境も追い風になっている。IBMの発表時点では、ビットコインが11万5,000ドルを上回り、イーサリアムも4,200ドル台を回復したとされ、利下げ期待を背景に機関投資家の動きが活発化していると説明された。価格循環が加速する局面ほど、取引量の増加に耐える保管体制や、監査・報告を前提にした運用設計が必要になる。
いま起きているのは、単なる参入表明ではなく、制度と技術をすり合わせるインフラ競争だ。暗号資産がグローバルな金融商品として定着するかどうかは、目立つ取引サービス以上に、こうしたカストディサービスの拡大がどこまで進むかにかかっている。





