三井倉庫ロジスティクスが、物流現場のペーパーレス化と業務最適化を狙い、ブロックチェーンを組み込んだ物流DX支援パッケージ「Trace Ledger」を導入した。開発元のZEROBILLBANK JAPAN(ZBB)がLOZIと共同開発した同パッケージは、東芝デジタルソリューションズが提供するエンタープライズ向け基盤「DNCWARE Blockchain+」でデータの真正性を担保する。物流の「2024年問題」やCO2削減への対応が続くなか、紙中心の運用を改め、現場の負荷を下げる具体策として位置づけられている。
三井倉庫ロジスティクスが進める物流業務の技術導入 ペーパーレスと真正性の両立
同社は家電メーカーや量販店を中心とした3PLを起点に、現在はLLP(リードロジスティクスパートナー)として流通業界向けの物流サービスを拡大してきた。現場では、帳票の集約などで印刷枚数の抑制を進めていたものの、改善幅をさらに広げるには紙の前提を崩す必要があったという。
背景にあるのが、トラックドライバーの時間外労働上限規制の影響で輸送力不足が顕在化した物流の「2024年問題」だ。待機時間の圧縮や事務作業の軽量化は、単なる効率化にとどまらず、事業継続の条件になりつつある。そこで焦点となったのが、紙が担ってきた「証跡」と「信頼」をデジタルでどう再現するかという設計だった。

三井倉庫ロジスティクスの現場では、出荷から店舗での検品まで複数の関係者が関わる。誰がいつどこで確認したかが追える仕組みがなければ、デジタル化は「便利」でも「証拠」として弱くなる。そこで、改ざん耐性を備える分散型台帳の考え方が、紙の代替として現場に受け入れられる条件になった。
Trace Ledgerが支える業務効率化 QRコード運用とブロックチェーンの実装
Trace Ledgerは、サプライチェーンの関係者がスマートフォンやタブレットでQRコードを読み取り、拠点や作業内容に応じたトレースデータを記録・蓄積・共有できる仕組みだ。倉庫内の検品、数百店舗規模の検品、必要時のデータ検索など、日々のオペレーションに組み込まれている。
導入効果として公表されているのが、1日あたり1,000枚の紙削減だ。さらに、ドライバーの待機時間は1人あたり1日平均45分、事務員の工数は1日あたり約1.7時間削減したとされる。紙のリスト出力や保管が不要になり、作業の前後に発生していた“手戻り”が減った点が大きい。
ここで鍵を握るのが、帳票データに関する改ざん防止用のハッシュ値を管理する基盤としてのDNCWARE Blockchain+だ。紙の押印や原本保管が果たしていた役割を、デジタルの証跡として再設計するうえで、セキュリティと透明性の担保が求められる。現場の運用に耐える「企業向け」ブロックチェーンを据えることで、単なるIT化ではなくデジタルトランスフォーメーションとして定着させる狙いが見える。
ブロックチェーンの文脈では暗号資産が想起されがちだが、企業システムでは「データ共有の信頼」をどう作るかが中心課題になる。金融領域での規制や制度設計が議論される一方で、周辺情報を追う読者は英国の暗号資産と金融システムをめぐる論点のように、技術と制度が交差する動きも押さえておきたい。
なお、業務プロセスの自動実行という意味ではスマートコントラクトが注目される場面もある。今回の事例は主として証跡と共有の強化だが、検品の確定や例外処理のフローがデータで整えば、次の段階として自動化の余地が広がる。現場に合わせた段階的な設計が、失敗しにくい導入モデルになり得る。
エンタープライズ向け分散型台帳が広げる物流DX データ信頼性が次の自動化を呼ぶ
ZBBによれば、当初のTrace LedgerはAzureやAWSが提供するブロックチェーンフレームワークを用いていた。しかし開発時の詳細な問い合わせなどで英語対応が必要になる場面があり、エンジニアリングの負担が課題になったという。そこで、2021年に東芝のオープンイノベーションプログラム参加を契機に協業し、国内ベンダーの基盤を取り込む判断につながった。
企業間連携では、技術選定が運用定着を左右する。実装や保守のしやすさに加え、従来の紙運用を理解したうえで要件を詰められるかが重要になるからだ。結果として、ZBBはブロックチェーン部分を東芝側に委ね、ソリューションの改善に集中できる体制を取ったとしている。
三井倉庫ロジスティクス側は今後、基幹物流センターを起点に複数拠点を連携させ、デジタル基盤が支えるGWC(Gate Way Center)構想の実現を見据える。ここで焦点となるのが、荷主やパートナーとデータをつなぐ“共通言語”としての信頼できる記録だ。改ざんされにくいデータが流通すれば、問い合わせ対応や事後処理、請求・支払いなど周辺業務にも波及し、DXの範囲が物流管理を超えて広がっていく。
一方、ブロックチェーンが社会実装されるほど、周辺領域ではカストディや金融インフラの整備も注目度を増す。業界の動きを追う読者は、例えば機関投資家と暗号資産カストディの論点のように、技術活用の“外側”で進む基盤整備も確認しておくと、企業の技術導入がどこへ接続していくのかが見えやすい。
ZBBは「紙ゼロ」の次として、省人化を見据えた“ヒトゼロ”に言及し、AIエージェントなど新しいインターフェースの実装にも触れている。AI活用が進むほど、学習・参照するデータの信頼性は重要度を増す。物流の現場発で積み上がる真正性のあるデータが、次の自動化と最適化を現実にする土台になりそうだ。





