各国中央銀行がデジタル通貨の実証実験を継続

各国の中央銀行がデジタル通貨の実証実験を継続し、金融の未来を切り拓いています。最新の動向と影響を詳しく解説します。

各国中央銀行が、法定通貨のデジタル版であるデジタル通貨(CBDC)の実証実験継続している。Atlantic CouncilのCBDC Trackerによると、2025年時点で世界GDPの98%を占める137カ国が研究開発に関与し、パイロット段階に入った国・地域も過去最多水準にある。

中国はe-CNYで取引額を積み上げ、欧州中央銀行(ECB)はデジタルユーロの準備フェーズを進める一方、米国は政府主導のCBDCに慎重姿勢を示し、制度整備の軸足をステーブルコインに移している。現金志向が根強い日本でも、日本銀行が段階的な検証を続け、将来の環境変化に備える構えだ。

各国中央銀行のデジタル通貨実証実験が続く背景

CBDCは、ビットコインのような仮想通貨や民間発行のステーブルコインと異なり、中央銀行が価値を保証する「デジタルの法定通貨」と位置づけられる。キャッシュレス決済が日常化するなかで、公的マネーがデジタル空間で機能し続ける設計を確保する狙いがある。

検討が加速した転機として、2019年にFacebook(現Meta)が打ち出したリブラ構想が挙げられる。結果的に計画は頓挫したが、巨大プラットフォームが決済を握り得る現実が各国当局の危機感を強め、CBDCを含む次世代の決済システム議論を押し上げた。

技術面では、分散台帳などブロックチェーンを含む多様な方式が比較対象になる。最終的に採用される設計は国ごとに異なるが、24時間稼働や即時決済、オフライン利用、耐障害性といった要件を満たせるかが、実験の主要テーマになっている。ここで問われるのは、単なる新機能ではなく社会インフラとしての信頼性だ。

各国の中央銀行がデジタル通貨の実証実験を引き続き進め、金融の未来に向けた革新的な取り組みを展開しています。

キャッシュレス拡大と金融包摂が試験運用を後押し

コロナ禍を経てキャッシュレスが急速に広がり、現金の代替ではなく「現金と同等に信頼できるデジタル手段」を公的に用意すべきかが論点になった。銀行口座を持たない人にも低コストで使える支払い手段を確保する、いわゆる金融包摂の観点も強い。

もう一つの焦点は国境を越える送金だ。既存の国際送金は手数料や処理時間が課題とされ、CBDCを使った新たなルートの検証が各地で進む。地政学リスクが高まる局面では、決済網の冗長性や代替手段を確保したいという政策的な動機も透ける。

中国 欧州 米国で分かれるデジタル通貨戦略

進捗の差を最も分かりやすく示すのが中国だ。中国人民銀行が推進するe-CNYは、2024年6月までの累計取引総額が7兆人民元に達したと公表されている。教育、医療、観光、小売など日常の支払いに組み込まれ、実地での検証が続いてきた。

対照的に欧州では、「戦略的自律性」を掲げてデジタルユーロを進める。ECBは2025年7月に準備段階の進捗をまとめた報告を公表し、民間を巻き込んだ技術検証を継続している。ルールブックづくりを含め、ユーロ圏で統一した体験を提供できるかが焦点となる。

米国は同時期、政府主導のCBDCを「止める」選択を鮮明にした。ホワイトハウスが2025年7月30日にデジタル資産市場に関する提言を公表する一方、制度整備はステーブルコインへ傾斜している。プライバシーや監視への懸念、民間主導のイノベーション重視、ドルの国際的地位維持といった論点が絡む。

この米国の方向性は、EUがMiCA(Markets in Crypto-Assets)で暗号資産・ステーブルコインの枠組みを整備する動きとも並走する。欧州の規制環境を理解するうえでは、EUのMiCAとステーブルコイン規制の解説が参考になる。公的デジタルマネーと民間マネーの境界線をどう引くかが、各地域の政策判断を左右している。

ユーロ圏では、デジタルユーロが既存のカード決済やアプリ決済とどう共存するのか、銀行預金の流出をどう抑えるのかが繰り返し議論されている。技術の問題に見えて、実際は金融構造の安定をどう守るかという制度設計の問いだ。

日本銀行は段階的な実証実験を継続し「備える」

日本銀行は2020年10月にCBDCへの取り組み方針を公表し、2021年から段階的な検証を開始した。基本機能の確認から周辺機能の検討へと進め、必要に応じてパイロットへの移行を判断する枠組みを整えている。公式情報は日本銀行のCBDC方針公表資料に整理されている。

日本で議論が慎重になりやすい背景には、現金への信頼が根強い市場特性がある。日本銀行自身も、現金流通高が対名目GDP比で高水準にある点に触れ、現時点で一般利用型CBDCの導入が差し迫った課題ではないとの見方があることを示してきた。それでも、社会のデジタル化が進んだ場合に「準備不足」がリスクになるため、検証は止めない。

設計面では、中央銀行が基盤を担い、民間の金融機関や決済事業者が利用者接点を担う「二層構造(間接型)」が基本線とされる。新しい金融技術を導入しても、利用者が日常でつまずけば浸透しない。たとえば、店舗のレジ、交通、公共料金といった生活導線にどう接続するかは、技術より運用の工夫が成否を分ける。

一方で、CBDCの利便性が高まるほど、プライバシー保護やサイバー耐性への要求も厳しくなる。海外では「監視」との距離の取り方が政治争点になり得ることが示されており、日本の制度議論も例外ではない。実証の積み重ねは、導入の是非以前に、選択肢を確保するための保険として機能している。